漆は古来より用いられており、少なくとも縄文時代の早期(約9000年前)には、土器や木材に漆を塗布し、利用していたとされています。
北海道垣ノ島B遺跡からは、漆塗りの服飾品が出土しており、後期にかけても全国の遺跡から朱塗りの埴輪や木鉢など、漆塗り土器が発見されています。(以下の記事参照)
その後、定住生活が進む弥生時代にかけて、農耕具や漁具など漆の用途は多様化していきました。
※以下、樹木は「ウルシ」とし、ウルシから採取された樹液は「漆」と表記しています。
ウルシの幹や枝葉から出る樹液は「乳白色(生漆)」ですが、酸化により乾燥すると黒色に変わる性質があります。
この酸化の途中段階である「透漆(飴色)」の状態時に、朱色や緑色の顔料を混ぜると「色漆(いろうるし)」となり、美しく発色します。
この朱色の色漆が、主に漆工芸品や首里城などに用いられています。
中世時代(1185年〜1573年)の初期、つまり鎌倉時代では、朱色は貴重で贅沢なものとされていました。
鎌倉時代は、僧や武士へ食器や調度品、兜や鎧などの武具が普及した時代であります。(以下の記事参照)
しかし贅沢品が故に、寺院や僧侶の他、朱塗りのお椀の使用が禁止されていた背景があります。
本記事では、そのような漆がなぜ用いられているのか。その理由として、漆の性質や魅力について紹介していきます。
最後までお付き合い頂けると幸いです。
なぜ漆(ウルシ)が用いられるのか!?漆の性質と魅力を解説!
漆は現代の化学塗料よりも「堅くて強靭」という優れた性質を持っています。
これは「ウルシオール」が酸化し、固まることで以下の特性を得るためです。
また、これらの性質と共に「耐水性・耐熱性・防腐性」が非常に優れているとされ、現代にも漆に勝る合成塗料は開発されていないとされています。
漆が酸化されることで強度が増す理由は、空気中の酸素による自動酸化反応により「架橋反応」が行われ、漆の塗膜は完全に硬化するとされています。
詳しくは「漆と高分子(宮腰哲雄さん)」の参考資料(PDFファイル)を添付しておりますので、ご参照下さい。(2ページ目の右下から11行目に記載があります)
つまり、自動酸化反応を起こしやすい「不飽和脂肪酸」の構造部分と、酸化防止機能のある「カテコール」の構造部分を持ち合わせているため、単一分子であった「ウルシオール」が、酸化によって網目構造となり、強度が増すとされています。
この「架橋反応」は、タイヤに用いる合成ゴムを製造する際にも行われる反応です。
タイヤの性質を考えると、漆が強固である理由にも納得がいきます。
漆の用途を紹介!接着性が生まれる理由とは!?
漆は塗り重ねるほどに強度が増していきます。
本格的な漆器は、20回くらいの漆塗りが必要とされており、それだけ堅牢になります。
日用ではお椀や箸、お盆や重箱が身近でありますが、漆を塗装すると抗菌・殺菌作用や、菌や虫の繁殖を防ぐため、床や天井にも使用されています。
また、漆器の塗膜は1年ほどで「ウルシオール」が固まるため、年月を経る毎により強固になり、そして使うほどに色艶が増していきます。
このゆっくりと乾く性質により、接着性が生まれ「中尊寺金色堂」や「金閣寺」の金継ぎとして利用されています。
最後に -漆塗りの魅力とは-
このように、漆には優れた性質があり、古来より人々の身近で用いられてきました。
また現代でも、漆に勝る合成塗料は開発されていない事実は驚きです。
本記事で紹介した漆の実用性はもちろんですが、漆工芸品には独特の味わいや、経年変化と共に生まれる光沢など、漆は日本らしい風情ある魅力も備えています。
本記事を読んで、さらに漆の魅力を知って頂けたら幸いです。
以上が「なぜ漆(ウルシ)が用いられるのか!?漆の性質と魅力を解説!」になります。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
「Woodyニュース」はTwitterやFacebookでも、自然や森林に関する様々なニュースを配信しています。ご興味がある方はフォローして頂けると幸いです。