花粉症の原因と言えば、まず”スギ”を思い浮かべますよね。
毎年、春先になると、”鼻水”や”くしゃみ”といった症状に悩まされる人が急増する「国民病」となっています。
スギ花粉は、早い地域では1月ごろから飛散が始まり、日本では5人に2人がアレルギー性鼻炎、
特にスギ花粉症患者は4人に1人とされています。
実は”スギ”以外にもヒノキやシラカバ、コナラ、クリ、オリーブなどの樹木も花粉症を引き起こします。
※”コナラ”や”クリ”については、以下の記事で紹介しております。
日本で花粉症患者が急増したのは1960〜70年代ごろとされており、この時期は高度経済成長による日本人のライフスタイルに急激な変化がありました。
① 食生活の変化
食事の欧米化が進み、肉中心の高タンパク・高脂肪の食事の増加。
タンパク質や脂肪の過剰摂取はアレルギー体質の原因。
② 住居の変化
気密性の高い住居が増え、ダニの死骸やフンが蓄積。
これらはアレルギーの直接原因となり、花粉に対して敏感に。
③ 排気ガス・大気汚染
排気ガスの大気中の微粒子が、花粉症を起こす”IgE抗体”を生産を促進。
アスファルト道路の増加が、地面に落ちた花粉が舞い散る原因。
④ 綺麗すぎる衛生状況
病原体との接触回数の減少が、アレルギーを誘発する原因。
また、”スギ”や”ヒノキ”が多く造林されたのも、この時代であります。
この”日本人のライフスタイルの変化”と”スギの造林計画”が、現在までに至る花粉症患者の急増に繋がっていると考えられています。
本記事では、花粉症の原因である”スギ”が、日本に多く植林されてきた”歴史”と”花粉症対策”について紹介していきます。
スギ花粉はいつまで続くのか!?”杉”が多く植林される”歴史”と”花粉症対策”を紹介!
花粉症の原因とされる”スギ”は、学名「Cryptomeria japonica」と呼ばれ、古くから存在する”日本の固有種”であり、また日本で最も数多く植えられている樹種であります。
「Cryptomeria=隠された」を意味し、”スギ”は「隠された日本の財産」とされています。
万葉集の中で「古の人の植えけむ杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし」と読まれているように、”スギ”はすでに奈良時代以前に所々で植えられていたようです。
そして”スギ”は、林業と切っても切り離せない関係性にあり、約500年前の室町時代の北山林業(京都府)や吉野林業(奈良県)から産業化され、私たちにもっとも身近な木材として生活を支えてきました。
スギが採用された理由として、スギの育てやすさ、虫害にかかりにくい性質、速い成長、加工しやすい材質が関係しているのかもしれません。
現在でも、吉野林業は吉野川の源流川上村を中心に、奈良県南部約20万haに広がっています。
吉野で林業が産業化された理由の一つとして、消費地の大阪に近く、輸送手段が発達していなかった時代でも、吉野川と海路を利用すれば、大阪へ比較的に容易に輸送できたことが関係しています。
またこれらの材は、酒樽の用材として大量に消費されていました。
酒樽の需要が減少した現在は、高品質の建築材として利用されています。
”スギ”は、戦後の”拡大造林計画”において日本各地で植林された樹種であり、現在もっとも広い森林面積(448万ha, 44%)を誇ります。
これは、2位の”ヒノキ”(226万ha, 25%)を大きく引き離しており、”スギ”は国土面積の約12%に相当します。
そして植林された”スギ”は、高度経済成長期では主に建材や船材、電柱、割り箸などに利用されてきました。
しかし現在、”輸入材の関税撤廃”と”住宅事情の変化”に伴い、現在大量に植林されたスギが管理されずに放置されているという現状です。
そのため、後述する”花粉症対策苗木”への入れ替えが急がれている一つの要因となっています。
”スギ”の利用の歴史を紹介!
”スギ”は日本で生育する針葉樹の中でも、大きく真っ直ぐに成長し、日本の木造建築を支えてきました。
また”スギ”は、厳しい寒さの中でも青々と茂る”常緑樹”です。
人々は古来より、この”冬の姿”と”大きさ”から、”スギ”に神々しい生命力を感じてきました。(以下の記事参照)
その所縁が現在でも、しめ縄を張られたご神木や、伊勢神宮の参道のスギ並木に現れています。
また、日本最古と言われる大神神社(奈良県)は、”スギ”と所縁の深い神社としても知られています。
この神社の”祭神”である大物主大神は、酒造りの神様とされており、日本各地の酒屋で看板代わりにスギの葉を束ねて店先に吊るす習慣がありました。
その他の”スギ”の利用として、新酒の仕込みの季節には、”スギ”の葉をボール状にした”杉玉”が店先に飾られています。
また、酒造りの際の特徴的な使い方として”桶”や”樽”が挙げられます。
”スギ”で桶や樽が作られるまでは、壷で酒造りが行われおり、これにより持ち運びが難しく少量生産の原因とされていました。
そのため、この普及により、日本酒の”大量生産”と”運搬”が可能なったとされています。
現在でも酒蔵や味噌蔵、醤油蔵では、酵母が棲みついた”スギの桶”が使われています。
その他にも「食」と関わる杉の利用方法として、秋田杉で作られる”曲げわっぱ”や、お酒を飲む”枡”、また国内で製造される”割箸”などがあり、スギの香りは食べ物とも相性がよく、ほのかに甘い芳香があります。
”スギ材”の特徴とは!?
”スギ材”の特徴について、以下にまとめました。
”スギ材”は”他の木材”と比べ、”強度”や”耐久性”について突出した長所はないものの、”スギ材”は全体的にバランスがとれた建材です。
また、”心材”に含まれる抽出成分は、”水”や”虫害”に強く、スギの心材は特に耐久性が求められる部分で重宝されます。
さらに品種や地域によって、”赤茶色”や”ピンク系”、”黒色”など、心材の色はバリエーションがあります。
主な産地として、天然林では「日本三大美林」の”秋田杉”(秋田県)があり、人工林では「日本三大人工美林」の”吉野杉”(奈良県)や”天竜杉”(静岡県) があります。
中でも特徴的なものとして、枝打ちを繰り返したまっすぐで細い木を育てる”北山杉”は、製材せず丸太のまま”磨丸太”として使われる高級銘木です。
高級和室では”四面柾”で節がない、赤身などで材料を揃えることにより、清潔感がありスッキリとした印象になります。
さらに、北山丸太のように”磨丸太”として、皮をむいた光沢のある表面を使えば、きらびやかで柔らかみがある”数寄屋風”の雰囲気も出すことができます。
近年のスギ花粉対策とは!?
現在、国民の3割が発症し、”国民病”とされる花粉症。
”林業”においても、その対策が急務となっています。
林野庁では現在、”スギ”の人工林を花粉の少ない森林へ転換するため、”スギ”の”伐採”と”花粉症対策苗木の開発”を進めています。
その結果、”少花粉スギ苗木”の年間供給量が、約25%の533万本へと増加しています。(2016年度)
このように今後、収穫時期を迎えたスギを伐採した後に、花粉症対策苗木を植林を行い、森林をアップデートしていくことが望まれます。
この取り組みにより、”花粉症の軽減”と”更なる二酸化炭素の削減”を同時に進めることが可能になります。(以下の記事参照)
最後に -スギと林業の関係性-
”スギ“と”日本文化“と”林業“は密接な関係性にあります。
しかし、近年の安価な輸入材の増加により、日本では手入れされない荒廃した森林が広がりました。
手入れされていないと”スギ”は痩せた木となり、”スギ”は子孫を残すためにより多くの花粉を飛散すると言われています。
また、放置され伐採されていない”スギ”も同様に、老木になるつれてより多くの花粉を放出します。
今後、私たちが森林と共生するために、”新たな材木の利用価値の採掘”(バイオマス発電など)”と”材木の価値の再定義”(住宅、家具など)を行い、木材の内需を増やしていく必要があります。
また、森林管理においては、林業従事者を増やし、収穫期を迎えた”スギ”を伐採・間伐し、植林する”森林サイクル”を作ることで、本来の生き生きとした”健康的な森林の姿”に変えていくことが”林業の使命”であると考えています。
以上が「スギ花粉はいつまで続くのか!?”杉”が多く植林される”歴史”と”花粉症対策”を紹介!」の説明になります。最後まで読んで頂きありがとうございます。
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