漆はウルシの樹木を植林し、そこから得られる樹液を原料に用いた天然塗料であり、環境に優しい素材です。

※以下、樹木は「ウルシ」とし、ウルシから採取された樹液は「漆」と表記しています。

 一般的に植林後、15〜20年生のウルシから樹液を採取します。

 成長の早いウルシは10年生からでも採取が可能です。

 その後、採取を終えたウルシは伐倒され、萌芽更新により再び育成され、伐倒したウルシは木材として活用されます。

 このように、植林(萌芽更新)→育成→採取→伐採のサイクルを行うため、漆産業は「林業」に位置づけられています。

 また漆の生産は、雑木林での「薪生産」のように短期間で生産サイクルを回していくことになります。(以下の記事参照)

 生産された漆は、主に漆工芸や重要文化財の修復に用いられています。

 漆塗りが有名な重要文化財として、世界遺産の首里城や中尊寺金色堂、日光東照宮、金閣寺などが挙げられます。

 首里城は、朱色の漆が塗られた「漆工芸の作品」として有名です。

 首里城は2018年11月に約2年3ヶ月をかけて修復されましたが、2019年10月31日の火災により、再び首里城の再建に漆が必要となっています。(以下の記事参照)

 しかし現在、首里城再建に必要な国産漆の不足が問題となっており、漆の生産量の改善が急務となっています。

 本記事では、首里城再建に必要な国産漆の不足問題と、近年の国産漆の需要の高まりや取り組みについてご紹介していきます。

首里城再建に必要な国産漆の不足

 国産漆の生産量は、漆器職人の減少や安価な中国産漆の輸入によって減少傾向にありました。

 文化庁によると、現在重要文化財の修復に必要な漆は年間2.2トンと試算していますが、国産漆の生産量は1.2トンしかなく、大幅に不足している状況です。

 また、漆器職人の減少は首里城の再建にも影響を与えています。

 首里城は琉球王国時代の漆の技法を用いて作られたものであり、この技を受け継ぐ漆器職人は30年前には約350人いましたが、現在では約50人にまで減少していると言われています。

 また、漆の工芸品は時代と共に劣化していくものであり、その都度の保存修復が必要になります。

 そのため、漆器職人の保護と技術継承が重要な課題となっています。

国産漆の需要の高まり

引用:photo AC

 漆の国内消費量は年間約44トン(2016年)と試算されています。

 そのうち約98%が中国産漆であり、残りの2%が国産漆です。

 1955年の金閣寺再建の際、中国産漆を使用したところ、10年経たずして金箔が剥がれるという事態が発生しました。

 漆は金箔の接着剤としての役割を果たしており、光沢のある黒色の漆は、金箔の輝きをより一層際立たせています。

 この中国産漆は国産漆と比べ、ウルシオールが7%ほど含有量が少ないとされており、重要文化財に用いる国産漆の必要性を知るきっかけとなりました。

 文化庁は2015年に、重要文化財の修復には国産漆を100%使うのが望ましいという通達をしています。

 また、1987年金閣寺の修復の際には約1.4トンの国産漆が、2007年の日光東照宮の修復では約18トンにまで達する国産漆が使用されていることから、国産漆の安定的な供給体制の確立が急務となっています。

 この需要の高まりに対応するため、文化庁はウルシの栽培と漆搔き職人の保護、育成を行う「ふるさと文化財の森」を設定しています。

 現在、岩手県・浄法寺や山形市、京都府・福知山市などの計80カ所(2019年)が「ふるさと文化財の森」により漆林としての指定を受け、市を挙げて国産漆の増産に取り組んでいます。

 この結果、ここ数年は徐々に国産漆の生産量が回復してきています。

最後に -漆文化の保護と継承-

 日本の漆塗りの文化は世界的に有名です。

 陶器が「チャイナ」と呼ばれるように、漆器は「ジャパン」と呼ばれ、世界に誇る日本文化として定着しています。

 漆塗りは神秘的な光沢を持ち、年月を経るにつれて色合いに深みが出るとされています。

 これら漆産業の保護活動により、世界に誇る漆文化が継承されていることを願っています。

 以上が「首里城再建に必要な国産漆(ウルシ)の不足と需要の高まりについて」の紹介になります。

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