エノキ(榎)はイチョウと並んで、紅葉が鮮やかな黄色に色づく秋の代名詞です。

 イチョウについては ”なぜ街路樹には銀杏の木が多い?秋を彩る紅葉「イチョウ」の特徴と魅力を解説!” で詳しく紹介しております。

 エノキ(榎)は、北海道以外に実生する落葉広葉樹で、暖かい地方でも鮮やかに紅葉するため、公園樹庭木としても人気があります。

 また、秋には橙褐色の美しい果実を付け、その果実は甘みあります。

 エノキ(榎)は、国蝶のオオムラサキの幼虫が、この葉や実を好んで食べ、葉の裏でサナギになることでも知られています。

 その他にも、この葉を食べる虫は多いようで、無傷で色づいた紅葉を見つけるのは中々難しいです。ぜひ一度、エノキ(榎)の紅葉を観察してみてください。

なぜ漢字に”夏”の季語が使われているのか?

 それでは、なぜ秋の紅葉が美しい「エノキ(榎)」の漢字に””の季語が使われているのでしょうか。

 エノキ(榎)は、樹高20mを超す大木で、枝分かれが多く、非常に目立つ樹木であるため、江戸時代では ”ランドマーク” として一里塚に活用されていました。(後述)

 また、夏に枝葉が青々と茂り、涼しげで親しみやすい風情があります。

 昔の人は旅のひと休みに、このエノキ(榎)の大きな木陰の下で涼んでいたと言われています。

 そのため、エノキ(榎)は「夏に日陰を作る木」を意味する和製漢字が当てられたとされ、「榎」と呼ばれる夏を代表する樹木とされていました。

エノキ(榎)の名前の由来

 エノキ(榎)の名前の由来は、、、

  • 熟した実を野鳥が好んで食べることから「餌の木(えのき)
  • 鍬(くわ)などの農機具の柄(え)に使われていたことから「柄の木(えのき)
  • 枝がよく伸びることから「枝の木(えのき)
  • 縁起の良い木を意味する「嘉木(よのき)

 と数多くあり、それだけ昔から人々に馴染みのある木であると言えます。

エノキ(榎)と一里塚の歴史を紹介!

 エノキ(榎)は、古くから土地の境界一里塚に植栽されたりと、目印(ランドマーク)として活用されていました。

「一里塚」とは、江戸時代に主要街道では、一里おきに作られ、その塚の上に樹木が植えられました。

 一里塚に植栽された樹種の記録によると、エノキは過半数(55%)を占め、以下にマツ、スギ、クリ、サクラが続いています。

 スギについては ”花粉のイメージ!? 日本にスギが多い歴史と対策” で詳しく紹介しております。

なぜエノキ(榎)が一里塚に採用されたのか?

 エノキ(榎)が一里塚に採用された理由として、、、

 杉や松はどこにでもある。一里塚には「余の木(よのき)」を植えよ。
(一里塚の創始者・織田信長

 一里塚には「良い木(よいき)」を植えよ。
(東海道建設・徳川家康

 と指示したのを、家来がエノキと勘違いしたという面白い説が有力とされています。

 とは言っても、エノキ(榎)の特徴を生かして、適材適所で植えられたと考えるのが妥当であるとされています。

 エノキ(榎)は樹高が高く枝葉が茂るので、遠くから見てもよく見えます

 また、落葉樹であるため、よい木陰を作るとともに、は枯れて暖かい陽だまりを作るので、一里塚に適した樹木であると言えます。

 さらに、エノキ(榎)は地面にしっかり根を張るので、塚の土盛りが崩れるのを防ぐ目的にも好都合であったようです。

 昔の人も樹木の特徴を知り尽くし、その特徴を最大限に生かすよう、樹木を活用していたのですね。

 このように、エノキ(榎)はランドマークとして、古くから人々に親しまれてきました。

縁切りの木として有名なエノキ(榎)を紹介!

 縁切りの木としては、東京・板橋区本町の「縁切りエノキ (榎)」が有名です。

 このエノキ (榎)は、、、

  • 木の下を通ると嫁入りの際には縁が短くなる
  • 願をかけると別れたい人との縁が切れる
  • 樹皮を煎じて密かに相手に飲ませると別れられる

 という言い伝えが残っており、今でもこのエノキ (榎)を目当てに、訪れる人が多いと言われています。

 なぜこのような言い伝えが生まれたのでしょうか。

 江戸時代の女性は、結婚するとどんなに辛い状況でも、自分の方から離縁できない背景が関係しているようです。

 現在では、樹木保護の観点から、皮が剥ぎ取られないようが巻きつけられています。

 竹については ”竹は草か木かどっち!?知っておきたい竹の特徴と魅力を紹介!” で詳しく解説しております。

 最近では、病気との縁切り、酒やタバコ・ギャンブルなどの縁切りを願い、訪れる人も増え、「縁切りエノキ (榎)」は板橋区の登録文化財に指定されています。

 また逆に、エノキ (榎)は縁起の良い木とも言われています。

 エノキ (榎)は老木になると、根が隆起し、神秘的な雰囲気を漂わせてます。

 現在でも、日本樹木の中で最高評価を受けるエノキ (榎)のは、その神秘的な美しさから、古くより縁起の良い木とされているのでしょう。

最後に -エノキ(榎)の格言・諺を紹介-

 エノキ(榎)とムクノキ(椋木)はよく似ており、これらの木を使った格言・諺があります。

 榎(えのき)の実は成らば成れ、木は椋(むく)の木(椋はなっても木は榎)

 榎の実が出来ようが出来まいが、一度ムクノキ(椋木)と言い出したら、その主張を変えない強情者の意味を表しています。また、、、

 (むく)の木の下にて榎(えのき)の身を拾う

 あくまでも自分が言い出したことを通そうとする諺(ことわざ)です。

 このようにエノキ(榎)は、主張を変えない強情な人を指した格言や諺として、椋の木と対比的に使われることが多いようですね。

 また、このエノキ(榎)の格言や諺は「馬鹿」という言葉が生まれたエピソードと非常に似ています。

 権力者が自身の権威を盾に、「鹿」を「馬」と言わせるような矛盾を無理やり押し通すことから転じて道理・常識からはずれていることを「馬鹿」と言うようになったとされる。

 ”『阿呆』と『馬鹿』の語源”で「馬鹿」の語源が分かりやすく解説されてます。興味がある方は是非どうぞ。

 格言や諺もその成り立ちを調べてみると、昔の人の考えと共感できる点があって面白いですね。

 以上が「エノキ(榎)の紅葉の魅力と歴史を紹介!なぜ漢字に”夏”の季語が使われているのか?」の解説になります。最後まで読んで頂きありがとうございます。

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