古来より「ヒノキ」は建築材として用いられてきました。
現存する世界最古の建築物と言われる「法隆寺」には、ヒノキ柱が用いられており、法隆寺を1300年以上支えています。
また「台湾ヒノキ」は、沖縄と気候が近いことから「首里城」に用いられていました。
台湾ヒノキは首里城の他にも、有名どころでは明治神宮の大鳥居や、東大寺の大仏殿に用いられています。
しかし現在、台湾ヒノキは輸出制限がかかっており、首里城火災の一件で、神社仏閣の改修や再建に必要な大径材の枯渇問題が浮き彫りとなっています。
本記事では、東大寺・大仏殿の再建を例に、古くから続く大径材ヒノキの枯渇問題についてご紹介していきます。
日本の大径材ヒノキの枯渇問題
現在の日本の森林状況は、国土面積約3,800万haのうち森林面積が約2,500万haを占めています。(森林・林業白書, 林野庁)
この森林率は、OECD(経済協力開発機構)の加盟国の中で、フィンランド(73%)についで、世界第2位です。
森林面積約2,500万haの内訳は、約60%(約1500万ha)が天然林で、残りの約40%(約1000万ha)が人工林の構成になっています。(下図参照)
この約40%(約1000万ha)の人工林の構成樹種は、以下の通りです。
しかし、この人工林のほとんどが戦後の拡大造林計画において植林されたものであり、現在利用できるヒノキの樹齢は60〜70年生のものがほとんどです。
そのため住宅を建てるには十分なサイズですが、神社仏閣に利用可能な大径材のヒノキを集めることが難しい状況にあります。
天然林では、木曽の樹齢450年の大口径のヒノキが存在はしますが、数は非常に少ないです。
東大寺再建の歴史を例に紹介!
大径材ヒノキの枯渇問題は古くから存在しています。
この歴史は、世界最大級の木造建築物である東大寺・大仏殿の再建からも伺えます。
東大寺の大仏殿は、過去に2回再建されています。
752年に東大寺は建設され、滋賀・近江の大径材ヒノキを用いて、最初の大仏殿が完成しました。
その建設面積は、現在の大仏殿の1.5倍あり、84本の柱(長さ30m・直径1m)を含めて14,800㎥の木材が使わています。
大仏に使った精錬銅約500tを含めた材料費は、現在の価格で算出すると約3363億5千万円に上るとみられています。
1度目の焼失は、1180年に源平の戦いで平重衡の焼き討ちによるもので、後白河上皇の院宣によって大仏殿は15年かけて再建されました。
この時期には、近畿地方の大径材ヒノキはすでに枯渇しており、重源が周防国や長門国(現在の山口県)で、大径材のヒノキを発見・調達しています。
2度目の焼失は、1567年戦国時代の松永久秀の乱によるもので、大仏殿の再建は江戸時代初期の1692年に行われました。
この時期には、諸大名による大城郭や城下町の建設も相まって、日本の大径材ヒノキは底をついていたとされています。
その結果、大仏殿を3分の2に縮小し、柱も各地から集められたヒノキやスギ、アカマツなどを寄せ集め、鉄の輪で締め上げた一種の集成材を柱として使用しています。
しかし、2本の梁は無垢材を使用する必要がありました。
そして最終的には、九州・霧島でアカマツの大木を発見し、のべ10万人以上の人員を要して奈良まで運んでいます。
このように、大径材ヒノキの枯渇問題は古くから存在しており、1973年の大仏殿の大改修の際には、台湾ヒノキが用いられています。
最後に -首里城の再建に用いられる木材とは!?-
このように、古来より神社仏閣には大径材のヒノキが用いられており、その枯渇が問題となっています。
また「古事記」のスサノオの神話の中にも「宮殿にはヒノキ材を使うように」と記されているように、神聖な神社仏閣にはヒノキ材を用いるべきという考え方が伝統的にあります。(以下の記事参照)
京都・清水寺のように、改修に必要なヒノキ山林を計画的に管理している例を除いては、上述の通り、日本で大径材のヒノキを見つけることは難しいです。
しかし例えば、スギのように別の木材であれば、日本国内の人工林にも大径材のものは残されており、代用することは可能です。(以下の記事参照)
このように日本は現在、伝統的な建築文化は後世に残しながらも、限られた資源の中で選択可能な方法を取り入れる、新たな転換期を迎えているのかも知れません。
以上が「首里城再建に用いる大径材ヒノキの枯渇問題とは!?東大寺再建の歴史を例に紹介!」になります。
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※本記事は「樹木にまつわる物語」を参考にさせて頂いております。