一般的に紅葉は、「寒暖差が大きくなければ綺麗に紅葉しない」と言われています。
しかし、中国南部原産の「ナンキンハゼ」は暖かい土地でも「赤・紫・黄・緑」の鮮やかな紅葉を見せ、美しい秋を感じさせてくれます。
また、寒さや病虫害にも強く、日本全国の街路樹や公園樹、庭木で数多く植えられる人気の落葉樹です。そのため、名前は知らなくても見たことがある人も多いのではないでしょうか。
葉が色付く理由については ”紅葉はなぜ赤色なのか?もみじ狩りの由来と魅力を解説!” で紹介しております。
ナンキンハゼの魅力を紹介!
ナンキンハゼは、春になるとハートの形をした葉を青々と茂らせ、夏には可愛らしい黄色い花を咲かせます。また、冬にはクリスマスリースでお馴染みの、白い実を実らせたりと、一年中楽しめる樹木です。
ナンキンハゼの花言葉は「真心」「心が通じる」だそうで、空に向かってまっすぐ伸びるナンキンハゼの姿そのものですね。
落葉した紅葉もきれいです。葉に油分が多いため、雨上がりや早朝の紅葉には、真珠のように赤い水滴が輝いています。
その油分の多さから、ロウソクの原料としても用いられてきました。火を付けると勢い良く燃えるので「燃える種」として知られています。
また、その栄養たっぷりの種子を持つナンキンハゼは野鳥にも人気があります。
そのため、野鳥による種の散布が活発であり、木の繁殖力は極めて強いとされています。
今まで分布が見られなかった地域にも、野生のナンキンハゼが分布しているという報告例もあります。
ナンキンハゼの紅葉名所は日本で奈良公園だけ?
ナンキンハゼは、その強健性と繁殖力から全国どこでも見ることができます。
全国の有名な自然公園やお寺などで、秋の代名詞「もみじ」や「イチョウ」「カツラ」「ケヤキ」などと共に、日本の秋を彩っています。(各紅葉は過去の記事で紹介しています。以下参照)
しかし、こと「ナンキンハゼ」のみとなると、日本で唯一「奈良公園」だけが、ナンキンハゼの紅葉名所となります。
そこには、「ナンキンハゼ」と「鹿」の複雑な関係性が影響しています。
「ナンキンハゼ」と「鹿」の関係性を説明する前に、まずは「林業」と「鹿」の複雑な関係性を紹介する必要があります。
林業と鹿の複雑な関係性
林業では、植林をする際、木の苗木にネットで防護柵を張ります。それは主に鹿による食害を防ぐためにあります。
鹿は雑食であり、幼齢木の枝葉や樹皮を好んで食べます。
幼齢木だけでなく、鹿の口の届く高さの枝葉や植物は、ほとんど消失している場合があります。
また。角を研ぐ際に樹皮を剥ぐことで、木が根から「水」を吸えなくなり、場合によっては枯れてしまうケースもあります。
(木が水を吸う原理については ”世界で一番高い木とは!?木が成長できる限界と「水」との関係を考察!” で解説しております)
平成30年度における鹿や熊などの森林被害面責は、全国で約6000ヘクタールであり、そのうち鹿による、枝葉の食害や剥皮被害は全体の70%です。(林野庁調べ)
奈良公園では「鹿せんべい」に甘えてくる愛らしい鹿ですが、その可愛いさの反面、憎むことができず、林業業界は頭を悩ませています。
ナンキンハゼと鹿の複雑な関係性
先ほど説明しましたように、鹿は雑食であり、幼齢木の枝葉や樹皮を好んで食べます。
そのため奈良公園は、新しい樹木が ”育つ” ことが難しい環境であり、他の種類の木を植えたところで、鹿に食害されてしまう運命にあります。
その一方、ナンキンハゼの種子は有毒成分を含んでいるため、他の木が食害を受けている中、ナンキンハゼは生き残ったと考えられます。
その結果、奈良公園は日本で唯一のナンキンハゼ紅葉の名所として存在しています。
しかし最近、奈良公園の鹿が栄養失調らしい
最近、”ナラシカ” が栄養失調であるという記事を見つけましたので、以下にその記事を紹介します。
全国的に鹿による獣害問題が深刻化する中で、保護されているナラシカの姿に、野生動物と人が共生するヒントを見つけられないかと考えて取材を進めた。
引用:「奈良の鹿は栄養失調? 鹿せんべい食えたらイイわけじゃない」
この取材の過程でもっとも驚いたのが、「ナラシカは栄養失調」であること。その事実を少しだけ紹介しよう。
体格の計測や死亡したナラシカを解剖結果から読み取れるのは、あきらかに栄養失調状態の個体が多いことだ。
まず一般の野性鹿より体格は小さめ。成獣オスの体重は一般に50キロほどだが、ナラシカでは30キロ程度。体長も小さい。肉づきでも劣る。そして大腿骨骨髄の色などからも栄養が足りていないことが確認できたという。
そういえば、と私も思う。時折、あばら骨が浮いたような痩せた鹿を見かけることがあるのだ。そして、よく落葉を食べている。落葉は、草食性動物にとって最後の食糧と言われるもので、通常は口にしない。ほかに食べるものがない冬などに仕方なしに食べるものだ。それを年中見かけるのは、ちょっと異常な状況である。
ちなみにナラシカの主食は、芝草である。奈良公園で育つ芝草の生産量はヘクタールあたり年間2895キログラムとされ、芝生の面積から導かれるナラシカの生息可能数は780頭だった。現在の生息数はそれを500頭近く上回るのだから、芝草以外の草木の量を含めても、餌は慢性的に不足していたのだ。
そのためか、これまで鹿は食べないとされたアセビやナンキンハゼ、あるいはシダ植物まで食べる姿も目撃されている。
一方で、寿命は比較的長い。平均寿命は20年に達する。これは野生ではあまりない状態だ。飢えているのに長生き……不思議な状況がナラシカの世界に起きているのである。
その理由を考えると、まず保護されていることがある。山野の野生鹿と違ってハンターに追われることもないし、怪我や病気になると人が治療してくれる。妊娠鹿も保護して無事に出産するまで世話を見てくれる。
そして、公園では観光客によって鹿せんべいが与えられる。つまり、命をつなぐ最低限の餌はあるから長生きできるのだろう。ただし、慢性的飢餓状態で……。
これは大変。ナラシカが栄養失調なら、もっと鹿せんべいをあげよう、餌を与えよう、と思う人もいるだろう。
だが、ことはそれほど簡単ではない。鹿せんべいの材料は小麦粉と米ぬか。草のような植物性繊維は少なく、ミネラルなど栄養素も偏っている。鹿せんべいばかり食べていては、鹿の健康が損なわれる恐れがある。あくまでせんべいはおやつなのだ。
”ナラシカ目線” の現状を書いた面白い記事でした。
このように鹿もナンキンハゼも、そして林業業界も、生き残るために一生懸命です。このような生存競争のノンフィクションドラマも奈良公園で見ることができます。
奈良公園のナンキンハゼが見られなくなる?
奈良県のホームページでも「紅葉の季節はナンキンハゼが綺麗」と紹介されています。
しかし近年、その野鳥散布による繁殖力から、特別天然記念物「春日山原始林」にも侵入しているそうです。
ナンキンハゼは、元々は中国南部原産の外来種であるため、奈良県は原則として、ナンキンハゼを駆除する方針を打ち出しています。
対象としては、春日山原始林のほか、原始林に連なる山地の樹林、東大寺背山、春日大社系内などを挙げています。
隔離距離は500m 以上必要とされており、県庁周辺を除く約200ヘクタールの計画区域全域で駆除すべきとされています。
中でも優先的に駆除すべき範囲として、春日野園地や浮雲園地などが有力候補として挙がっており、近い将来、「ナンキンハゼ紅葉」と「鹿」の趣きある景観が見れなくなってしまうかもしれません。
最後に -日本人にとっての紅葉とは-
奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の 声きく時ぞ秋は悲しき
人里離れた奥山で、散り敷かれた紅葉を踏み分けながら、雌鹿が恋しいと鳴いている雄の鹿の声を聞くときこそ、いよいよ秋は悲しいものだと感じられる。
もの静かで奥深い趣のある歌です。紅葉のさみしい枯れ色を味わえるのは日本の美しい文化ですね。
歌のように、秋の紅葉の姿を日本人は一つ一つ玩味するように味わってきました。
鹿の肉が「もみじ」と呼ばれるのは、梅と鶯(うぐいす)が結びつけられたように、紅葉と鹿が連想的に結びついたからであるとも言われています。
季節に融け込み「枯れ」を親しむことで、紅葉は昔の人と同様、私たちに秋を楽しむ機会を与えてくれます。
以上が「ナンキンハゼの紅葉名所は日本で奈良公園だけ?そこには鹿との複雑な関係性があった」の解説になります。最後まで読んで頂きありがとうございます。
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